TRUNK COFFEE|トランクコーヒー(愛知県・名古屋)JCTC王者 石原匠真氏が語る焙煎とコーヒーの今

PostCoffeeがお届けするコーヒーにさまざまな個性があるように、コーヒーの味わいを決めるロースターたちの人生もそれぞれ。全国で活躍中のロースターたちへのインタビューで紡ぐ本企画では、コーヒーとの出会いやこれまでの歩み、さらには今後のコーヒーとの向き合い方についてお話をうかがいます。今回インタビューにご協力いただいたのは、古くから喫茶店文化が根付く名古屋で北欧スタイルのコーヒーを提案している、ロースターカフェ「TRUNK COFFEE」。22歳で「TRUNK COFFEE」の門をくぐり、わずか4年でコーヒーの味わいを判別するカップテイスターズチャンピオンシップ(JCTC)の日本チャンピオンに輝いた、石原匠真氏に話を伺いました。

焙煎を行う石原匠真氏

コーヒー好きの兄の影響で
大学時代より競技会に参加

石原氏が「TRUNK COFFEE」と出会ったのは、大学3年生のころ。きっかけは、同店主催のパブリックカッピングに通っていた実兄に誘われたことだった。

「それまでコーヒーを強く意識したことはなく、缶コーヒーやインスタントコーヒーを楽しむくらいの距離感でした。ですが、兄が揃えたこだわりのコーヒー器具で淹れたコーヒーは、いつものコーヒーと何かが違ったんです。その味の正体が気になって、僕もTRUNK COFFEEのパブリックカッピングに参加するようになりました」

大学卒業後は新卒で一般企業に就職し、コーヒーはあくまで趣味のひとつ。転機となったのは、その年の夏に参加したエアロプレスの大会でのこと。一般人でも気軽に参加ができるライトな大会だったため、石原氏も参加。結果は初戦敗退だったが、コーヒーへの熱量は急激に上がっていったという。

「その頃からコーヒーを仕事にしたい! と強く思うようになって、大会の後すぐに勤めていた企業に辞表を提出し、TRUNK COFFEEに履歴書を送りました。TRUNK COFFEEが本気でコーヒーと向き合っていることは大学生のころから感じていましたし、バリスタの方から『TRUNK COFFEEのトレーニングは厳しいよ』とも聞いていました。面接でTRUNK COFFEE代表の鈴木康夫から、『厳しいトレーニングがあることを知った上で入社するならば、より厳しく教えていくよ』と言われたのを覚えています」

TRUNK COFFEE(トランクコーヒー)の外観

鈴木氏の言葉通り、入社後は厳しいトレーニングが待っていた。ハンドドリップ、エアロプレス、エスプレッソなどの抽出方法にはじまり、マシーンの使用方法、店内のオペレーションシステムなど、「コーヒーに関することを全て」教えてもらったという。

「今まで私がお客さんとして飲んでいたTRUNK COFFEEのコーヒーはすでに完成されているものだったので、それ以外の味わいは知らなかったですし、自分で家で淹れるときも何となく雰囲気で淹れていただけだったので、まずは『本当においしいコーヒーって何なんだろう』というところから覚える必要がありました。抽出もオペレーションも全ての工程を洗練させなければいけないので、毎日たくさんのコーヒーを淹れて飲んで検証して…。入社後の2ヶ月はとても大変でした」

味を見極めるカッピングの大会で、
日本一のバリスタに

日々勉強を続け、どんどんコーヒーの世界にのめり込んでいった石原氏のハードな日常は気づけば2年の月日が経過。バリスタとしてある程度の技術を身につけた石原氏は、次の目標である「ロースター」へと向けて走り出した。

「鈴木に『焙煎がしたい』という話をしたら、『じゃあ大会で結果を出してよ』と言われました。確かに私はまだ大会で結果を出せたことがなかったですし、カッピングの精度も高いとは言えませんでした。ちょうどそのときに、TRUNK COFFEEのロースターがカップテイスターズにチャレンジしていた姿を見ていたので、カップテイスターズに向けて練習をすればカッピングの技術も上がるし、結果も出せるかもしれないと、私も大会に挑戦することに決めました」

大会に挑戦するロースターの先輩2人と1年間練習に励んだ石原氏。中米系やアフリカ系などあらゆる国のコーヒーを比較し、どのように味わいが異なるのか、どのように淹れれば豆の味わいがいかされるのかとディスカッションを重ね、カッピングの精度を高めていった。

「でも、初めて参加した大会は予選落ち。自信はありましたが、上には上がいるんだということを見せつけられましたね。この状態では勝てない、次は絶対に勝つんだと、さらに1年間練習を重ねました」

そして2022年、2度目に参加したカップテイスターズチャンピオンシップ(JCTC)で、見事日本チャンピオンに輝いた。

「レベルの高い方たちが集まる大会なので、まさか自分が優勝できるなんて思ってもいなくて、正直予選通過した時点ですでに目標達成という気分でした(笑)。でも、ここにいられるだけでもありがたいことなんだ、とにかく楽しもう! と、今まで以上に集中してファイナルに挑んだら優勝することができて…。もちろんうれしかったですけど、その時は実感が全く湧きませんでしたね」

世界大会で痛感した、レベルの違い

2023年6月には、ギリシャで開催された世界大会に日本代表として出場。ハイレベルな戦いを目にした石原氏は、多くの気づきを得たという。

大会に出場する石原匠真氏

「大会の前日に各国の選手たちとの合同練習会があったんですが、私は英語ができないのでうまくコミュニケーションが取れなくて。でも、大会でやるべきことは決まっているから、言葉でのコミュニケーションはなくても通じ合える部分がありました。国籍など関係なく通じ合えるコーヒーってすごいなと、改めて感じましたね。また、練習会にはその年のアテネ大会で優勝したオーストラリア代表の方もいらっしゃって、一緒に練習したんですが突き詰め方のレベルが段違いでした。他の選手のみなさんも大会に対するモチベーションがとても高いのですが、かといって殺伐とした雰囲気は一切なく、問題に正解したら拍手で称え合い、みんなでコーヒーを飲ませあって、どう? と相手の意見を聞いたり、お互いをリスペクトし合う姿が印象的でした」

「大会への熱量はまだまだ冷めていない」と石原氏。もちろん勝利にもこだわりはあるが、日本のバリスタとして世界にチャレンジし、日本のコーヒー業界を盛り上げることが目標だという。そして、そこで培った成果をTRUNK COFFEEに返していきたいと語る。

「昨年私が焙煎したコーヒー豆を使って、TRUNK COFFEEのスタッフがコーヒーの抽出技術を競い合うブリュワーズカップにチャレンジしたんですが、いい結果が残せなくて悔しい思いをしました。敗因は私の焙煎技術が未熟だったことも影響していると思うので、基礎的な焙煎技術だけではなく、さらに上を目指して焙煎技術を磨いていきたいです。あと抽出に関しても、検証したいことがまだまだたくさんあるのでチャレンジして、その結果をバリスタとディスカッションしてさらにアップデートし、TRUNK COFFEE全体のクオリティーを上げていきたいと思っています」

最後にスペシャルティコーヒーの魅力は? と尋ねたところ、「難しいですね…」と一瞬考えた後、「スペシャルティコーヒーを特別に感じてもらわなくてもいいんです」と呟いた。

「名古屋の方々にとって、喫茶店やカフェというのはおいしいコーヒーを求めて来る場所というよりも、その場所で誰かとお話しをするための場所というイメージが近いんです。だから私としては、ちょっと時間を潰すために入ったカフェのコーヒーがおいしくて、ちょっとしあわせになって、ちょっといつもよりいい時間を過ごせたなと思えてもらえたらそれでいいんですよね。スペシャルティコーヒーってすごいコーヒーなんだって思ってもらうことよりも、身近なものなんだと感じてほしいですし、TRUNK COFFEEも居心地がいい場所として選んでもらいたいと思っています」

【プロフィール】

石原匠真/Shoma Ishihara
TRUNK COFFEE

TRUNK COFFEE(トランクコーヒー)の石原匠真氏

1996年生まれ。岐阜県出身。大学時代より「TRUNK COFFEE」主催のパブリックカッピングやエアロプレスの大会に参加。本格的にコーヒーを学ぶため、当時勤めていた会社を退職し、2018年「TRUNK COFFEE」に入社した。コーヒーの競技会に意欲的に挑戦しており、2022年に行われたジャパン カップテイスターズ チャンピオンシップ(JCTC)で優勝。2023年6月にギリシャで行われた世界大会に日本代表として参加した。

【スタッフクレジット】
INTERVIEW&TEXT/RYOTA MIYOSHI