Life Size Cribe|ライフサイズクライブ(東京・国分寺)“等身大”でコーヒーを届ける国分寺のロースター・吉田氏の想い

コーヒーの世界に欠かせない存在のひとつがロースター。豆の味もさることながら、ロースターも個性豊かな方々ばかり。PostCoffeeでは、奥深いコーヒーの世界を楽しんでもらうべく、国内外の様々なロースターパートナーから取り寄せたコーヒーを販売しています。この企画では、ロースターパートナーの皆さんのコーヒーライフに迫るインタビューを実施。今回はLife Size Cribe(ライフサイズクライブ)の吉田一毅氏にお話を伺った。

Life Size Cribeで抽出する吉田 一毅氏

都会の喧騒から離れたベッドタウン、国分寺。駅からすこし歩いた先にある路地裏に入ると大衆居酒屋や個人商店が点々と並ぶ。さらに一本横道に入ると黒を基調にしたクールな外観と真鍮でつくられた「Life Size Cribe」の看板が姿を現す。

路地裏の中でひときわ異彩を放つ雰囲気だが、不思議と街に溶け込む落ち着いた佇まいで、大きく開けた入り口が開放感のあるコーヒーショップだ。

代表を務めるのは吉田一毅氏。大学卒業後から生粋のコーヒーマンとして、第一線でコーヒーシーンを牽引し続ける彼だが、どんな学生時代を送っていたのだろうか。

国分寺のカルチャーが育んだ、バリスタへの情熱

「大学生の時は、高校からやっていたストリートダンスに熱中していました。それまではずっとバスケをやっていたんですけど、ダンスに出会ってから音楽、ファッションなどのストリート・ヒップホップカルチャーを追いかけるようになりました。その頃は缶コーヒーを飲むのが好きだったんですけど、コーヒーを飲むっていう感覚よりかは缶コーヒーのサイズ感や飲む時間が好きで、他人からも『K-ZU(ダンスネーム)いつも缶コーヒー飲んでるよね』って言われるくらいでした」

当時から国分寺を拠点に様々なカルチャーに触れながら毎日を送っていたという彼にとって、この町は思い出深い場所だ。

「国分寺は学生の時からずっと過ごしてきた中で、色んな意味で一番感化された街というか、個人店がたくさんあるこの下町感がすごく好きだったんです。実はこの下町っぽさは僕の土台になっている部分でもあり人の優しさだったり暑苦しさだったり、人情に触れた町なんです」

コーヒー業界の中でも兄貴のような存在で、人望が厚い吉田氏の人柄はこの町の存在が根幹にあるかもしれない。

大学を卒業後、仲間からの「お前コーヒー好きだから、コーヒー業界も挑戦してみれば?」という何気ない一言からコーヒー業界へ進む事を決意した吉田さんは、30歳で自分のお店を持つ事を目標に社会勉強のためドトールコーヒーへ入社。コーヒーマンとしての一歩を踏み出す事となった吉田さんだが、働いていく中でバリスタという存在と出会い、彼の心を大きく動かす。

「たまたまドトールコーヒーの別業態の店舗で、エスプレッソマシンを慣れた手つきで操作し、コーヒーを作っているバリスタをみて、めちゃくちゃかっこいいなって。元々ダンスをやっていたこともあり、パフォーマンスだったり格好つけるのが好きだったので、“バリスタ”という存在に一瞬で惹かれました」

その後すぐに「バリスタ」のキーワードでインターネットで検索しては気になるコーヒーショップに足を運び続けたという。そんな中でも衝撃的な出会いは、当時のバリスタ世界チャンピオンの店、「Paul Bassett」だった。

バリスタの原点は一杯のエスプレッソとの出会い

「Paul Bassettに初めて行った時、エスプレッソを頼んでいつものようにお砂糖を入れようとしたら『よかったらお砂糖入れないでそのまま飲んでみてください』と言われて、このお兄ちゃん全然わかってないな、と思いながらも飲んでみたら、ほんとにダークチョコレートの味がして、鳥肌が立つくらい美味しかったんです」

このエスプレッソとの衝撃的な出会いをきっかけに、Paul Bassettへと通い詰め、バリスタの技術を盗もうと必死に研究を始めた。その後、Paul Bassettに入社。現在も日本のコーヒー業界を牽引するバリスタや焙煎士を多数輩出したPaul Bassettでの日々は、厳しくもあり、誇りの持てる経験だったという。

Life Size Cribeのカフェラテ

「とにかくみんな本気でコーヒーと向き合っていましたね、コーヒー一杯を出すのに本気のバリスタがいればホールも真剣じゃなきゃいけないし、全員がパフォーマーであり、職人であり、よき戦友。朝から晩までコーヒーの話をしてコーヒーの事だけを考えて働いていました」

そんな日々を送る中でコーヒーとの向き合い方にも変化が生まれていったという。

「Paul Bassettで初めてスペシャルティコーヒーというものを知って今までのコーヒーの概念が壊されて、やっぱり食材(生豆)っていうものに価値があって、それは誰かが作っていて、どこかに流れていって、誰かを感動させる、だからこそ誰かが調理(焙煎・抽出)していく行程がある。このスペシャルティコーヒーは、世の中に絶対に何かしらの影響を与えていくものなんだとビシビシ感じました」

独立と“Life Size Cribe”の誕生ストーリー

その後Paul Bassettで経験を積んでいく中で、自分自身のスタイルを考えるようになり本格的に独立の為の準備を始めた吉田氏は2015年3月に「Life Size Cribe」をオープンさせる。

Life Size Cribe(ライフサイズクライブ)の店内の様子

「Life Sizeは、「等身大」という意味です。背伸びをしたり、自分自身を強く見せたり着飾ったりするよりも、ナチュラルな自分を愛でていきたいという、僕の中の理想です。理想も大事だけれど、それよりも現在進行形で、今の等身大の自分や仲間を大事にしたいなと思っています。Cribeは「crib to live」という言葉から来ていて、直訳すると「生きていくための場所」です。等身大のまま、仲間や大事な人たちが安心して集まることのできる場所にしたいと思い、付けた店名です」

Paul Bassettに入り、「東京のど真ん中でコーヒーをやっていく上で背伸びをしていたしかっこつけすぎていた」という吉田さん。コーヒーはもっと身近な飲み物でいい。それが彼にとっての等身大で「ライフサイズ」だという。

どこか安心感を思わせてくれるお店の雰囲気は、そのスタイルや彼の温かい人柄がそう感じさせるのだろう。できるだけ飾らずにニュートラルな接客を意識しているという吉田さんは自分自身を確立するために大事にしている言葉がある。

古い英語の言葉で “スミス” いわゆる “職人” って意味なんですよ、僕はバリスタでもありロースターでもあり、サービスマンでもあり、自分のなかでそれを『コーヒースミス』って謳っています」

バリスタとして大切にする“自然体の美味しさ”

豆の選定から、焙煎、抽出、サービスに至るまで全て一貫してひとりで行う彼は、まさに職人。そんなコーヒースミス吉田氏が抽出や焙煎において意識していることをこう語る。

「僕が表現したいものっていうのは着地点がお客さんだったりとか、日常的なナチュラルな部分なんですよね、まさに “ライフサイズ(等身大)” っていうのがブレてない部分なんですけど、いつものコーヒーをいつものように飲んでいけるような無意識で楽しめるコーヒーを提供したい。その為に、美味しくするっていうよりかは、常に色んな方にコミットするように整えてあげるっていうのを大事にしています」

Life Size Cribe(ライフサイズクライブ)吉田 一毅氏の焙煎

彼自身も毎朝のルーティンでコーヒーを楽しんでいるそうで、日々のコーヒーライフやコーヒーとの向き合い方についても教えてくれた。

「毎朝、娘を起こす前に豆を挽いて、ハリオのスイッチ※にセットして最終的には2歳の娘が淹れてくれるんですよ(笑)最近は意識してコーヒーを淹れることをやめていて、あまり考えずになんとなく淹れたコーヒーを飲んだ時に『ちょっと今日いつもよりおいしかったな』とか、そういう些細な気づきが楽しみなんです」

「Cribeのコーヒーにmeetしてくれた方にまさに伝えたい言葉なんですけど『100点のコーヒーを作ることは僕でも不可能です』って伝えます。僕が100点のコーヒーを作れるようになったら、多分、僕コーヒー屋やめちゃうんですよ。計算式をつくって色んなデータをとってやっても全く同じにはいかないのがコーヒーの面白さで、だけどその中で日常的な80点、85点のコーヒーがどれだけ尊いかってことなんですよね、全く同じ環境はないからこそ、豆を挽いている時間とか、淹れている時の時間に美味しさを感じてもらえたらいいなと思います」

大学卒業からコーヒー業界の第一線に身を置いていた吉田氏だからこそ、コーヒーというものの本質を自分なりの解釈で捉え、目の前のお客さんとフラットな目線でコーヒーを楽しんでいる。その姿はまさに彼の表現するコーヒースミス。

 

今年でお店のオープンから8年目を迎える吉田氏は、今後の展望をこう語る。

「こういう地方都市だったり地域の人たちがもっとコーヒーを飲む環境を整えてあげたい。その為に、地域の中で寄り添うようにコーヒーがある日常をつくるためのお手伝いができたり、第一人者になれればと思います。そしてコーヒーを通して、人々の日常に何かエッセンスを与えられたらなと」

地域に根ざし、等身大でありながらも日々新しいことに挑戦し続ける彼は、これからも“コーヒースミス”として美味しいコーヒーを届け続ける。

※ハリオの浸漬式ドリッパー

 

【プロフィール】

吉田 一毅 / KAZUKI YOSHIDA
Life Size Cribe

Life Size Cribe(ライフサイズクライブ)吉田 一毅氏

合同会社 CRIBE CEO。Life Size Cribe 代表。大学卒業後、大手コーヒーチェーンにてバリスタとしての勤務を経て、「Paul Bassett」で約 2 年間の経験を積む。2015 年より独立し、国分寺にて Life Size Crib をオープン。その後、数々のラテアートコンテストにも入賞。国分寺の地域に根付いた店舗の運営をしながら、開業コンサルやバリスタトレーニング等にも携わる。

【スタッフクレジット】
INTERVIEW&TEXT/RYOTA MIYOSHI