Coffee Supreme|コーヒースプリーム(東京・渋谷)松本氏が39歳で異業種から飛び込んだ、スペシャルティコーヒーへの挑戦

PostCoffeeがお届けするコーヒーにさまざまな個性があるように、コーヒーの味わいを決めるロースターたちの人生も、またそれぞれ。全国で活躍中のロースターたちへのインタビューで紡ぐ本企画では、コーヒーとの出会いやこれまでの歩み、さらには今後のコーヒーとの向き合い方についてお話をうかがいます。今回インタビューにご協力いただいたのは、渋谷と辻堂に店舗を構える、ニュージーランド発の「Coffee Supreme Japan」。39歳で異業種からコーヒーの世界へ飛び込んだという、代表・松本浩樹氏に伺いました。

Coffee Supreme(コーヒースプリーム)のカウンター

Coffee Supremeと出会い、
39歳で大手企業を退職

1993年にニュージーランドの首都・ウェリントンで創業した「Coffee Supreme」は、オーストラリアのメルボルン、シドニー、ブリスベンにも展開する、世界中のコーヒー愛好家から支持を集める老舗のスペシャルティコーヒーロースターカンパニー。松本氏はこの「Coffee Supreme」に惚れ込み、約3年もの月日をかけて日本に誘致したキーマンだ。

Coffee Supremeと出会ったのは、僕が39歳のころ。妻の実家があるニュージーランドに短期滞在していたときでした。ある日たまたま店に入って、はじめてフラットホワイトを飲んだんですが、めちゃくちゃおいしくて。ショップの雰囲気もいいし、スタッフもすごくイケてるし、日本にはないような独特な空間や空気感に衝撃を受けて通うようになったんです」

日本ではタワーレコードやツタヤオンライン、コナミデジタルエンタテインメントといったエンターテイメント業界に身を置いていた松本氏。真面目な性格柄、次つぎと成果を上げ、責任ある立場を任されてきたという。しかしCoffee Supremeと出会い、その人生は大きく変化していく。

「はじめて海外のカルチャーを体感したときに、このまま日本でサラリーマンをやっていてもおもしくろくないなと思って、会社をやめようと決意しました。この時点ではCoffee Supremeを日本に持ってこようなんて考えてもいないし、英語もしゃべれず貯金も減る一方。しかも、当時1年半の育休取得中で、育休明けには僕のポジションが上がることが決まっていたんですね。プライベートでは子どもが生まれたばかりだし、日本で家を建てている途中でもあって、タイミング的には最悪(笑)。でも、それのせいにしてチャレンジしないことのほうが損なんじゃないかと思って」

3年間のアプローチの末、
Coffee Supremeを日本に誘致

当初ニュージーランドと日本をつなぐ仕事がしたいと考えていた松本氏は、ニュージーランドの製品を日本に輸出する仕事をスタート。しかし、安定した収入は得られなかったそう。

「このままじゃまずいと、Coffee Supremeでコーヒーを飲みながら考えていたときに、このコーヒースタンドを日本でやれたらいいんじゃないかと思い付いたんです。ニュージーランドと日本をつなぎたいという僕の思いからもズレないし、これまで出会ってきた人やコンテンツとCoffee Supremeをつなぐハブにもなれる。エンターテイメント業界で培ってきた僕の経験を活かすことができるし、やってみたらおもしろいんじゃないかと」

Coffee Supremeを日本でやりたい。そう決意するも、ショップにとって松本氏は常連客のひとり。さて、どうしようか。松本氏はまたCoffee Supremeで考えるのだった。

「その日は友人を連れてCoffee Supremeでコーヒーを飲んでいました。そうしたらその友人が、たまたまCoffee Supremeの社長と知り合いで、偶然社長もカフェに来て、紹介してもらえたんです。『日本から来たんだ! 今度飲みに行こうよ!』ってオフィスに誘ってくれて。ビールを飲みながらお互いが好きな音楽の話で大盛り上がり。Coffee Supremeを日本でやりたいという僕の気持ちもどんどん強くなっていきました」

まずは信用してもらわなければと、その思いを伝え続けた松本氏。食事に誘い、一緒にお酒を飲み、定期的に資料を作って思いをプレゼン。しかし、回答はいつも「おもしろいね。だけどそう簡単にはできないよ」。

「やりとりは3年くらい続きました。そのあいだは定職にもつけないけれど、僕も諦めたくないし、2年も3年も経ったら引くに引けなくなって(笑)。やっと東京を案内するところまで漕ぎ着けて、3年目でやっとYESと言ってもらえました」

楽しんでもらうためには、
楽をしてはいけない

そして2017年、東京・渋谷に「Coffee Supreme Tokyo」をオープン。ニュージーランドの本店が大切にしてきたオールウェルカムマインドを日本にローカライズし、独自のホスピタリティカルチャーを追求している。

Coffee Supreme(コーヒースプリーム)の店舗

「僕が本店で感じた居心地のよさや、Coffee Supremeのカルチャーを日本でも伝えたいと思っていますが、そのまま持ってきても伝わらないし、日本に寄せすぎたらCoffee Supremeである理由がなくなってしまう。だからニュージーランドと日本のよさをうまく混ぜ合わせることが大事だと思っています。接客の面でも、スタッフに普段から言ってるのですが、『目の前にいるお客様を楽しませてほしい。だけど、自分は楽をしちゃだめだよ』と。ラフさとだらしなさを履き違えてしまうと、自分が楽しければお客様もよろこんでくださると、勘違いしてしまうので、そこはしっかりと線引きしています」

また、Coffee Supreme Japanのオリジナルグッズの人気も高い。これまで数多くのグッズを発売しており、世界的ゲームクリエイターの小島秀夫氏が率いるKOJIMA PRODUCTIONSや大人気アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』、アーティスト花井祐介、Naijel Graphらともコラボレーションをしてきた。

「ただグッズをつくったり、自分たちだけが表に立つのは違うかなと思っていて。自分が経験してきたことや感じたことなど、いろいろな背景を大切にしながら、コーヒーを通して素敵な人たちとつながって、自分たちも一緒に成長していきたいと思っています」

Coffee Supreme Japanの真髄を
日本からアジア全体へ発信

Coffee Supreme Tokyo」に続き、2023年には神奈川県・辻堂に「Coffee Supreme Tsujido」をオープン。現在、松本氏は次のステージに向かうための準備を進めているという。

「先日Coffee Supremeグローバルとして、日本のインディペンデントコーヒーロースターでは初となるBcorp認証(社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対する国際的な認証制度)を取得しました。今後はビジネスだけでなくと環境問題についての取り組みも、バランスよく公益性をもって、更に高めていきたいなと思います」


最後に、プライベートでのコーヒーとの向き合い方について伺った。

「実は自分で淹れるのは苦手で。大学が理系で実験ばかりやっていたのもあって、1mmのズレなどが気になっちゃうんですよね(笑)。なので、僕はショップでコーヒーを飲むのが好きですね。だから肩肘はらずに入れるショップが好きですし、自分のショップもそうありたいと思います。Coffee Supreme Japanは、オールウェルカムなブランド。毎日朝ごはんを食べるような感覚で、肩肘張らず気楽に楽しんでくれたらうれしいです」

【プロフィール】

松本浩樹/Hiroki Matsumoto
Coffee Supreme Japan 代表取締役社長

Coffee Supreme(コーヒースプリーム)代表松本氏

1974年生まれ。東京都出身。大学卒業後、タワーレコードに入社し、販促や店舗開発などを経験。その後ツタヤオンライン、コナミデジタルエンタテインメントでマーケティングプロモーションを担当する。妻の実家があるニュージーランドに短期滞在していた際に、Coffee Supremeと出会う。2017年、ニュージーランドと日本をつなぐCoffee Supreme Japan株式会社を設立。現在は、東京・渋谷と神奈川・辻堂に店舗を構える。

【スタッフクレジット】
INTERVIEW&TEXT/NORITATSU NAKAZAWA